1-4-1. 日本温泉気候物理医学会の役割と皮膚科領域の研究動向

日本温泉気候物理医学会とは

日本における温泉療法(鉱泉療法)・気候療法・物理医学の学術的総本山である「一般社団法人 日本温泉気候物理医学会(Japanese Association of Physical Medicine, Balneology and Climatology)」について、設立の経緯から最近の研究動向までを包括的にご紹介します。

  1. 設立と歴史

日本の温泉医学・物理医学の発展とともに、80年以上の歴史を持つ伝統ある医学会です。

  • 設立: 1935年(昭和10年)
  • 設立の背景: 古くから日本に伝わる経験的・伝承的な「湯治(温泉療法)」に対し、近代西洋医学に基づく科学的な光をあて、その作用機序や治療効果を解明・体系化することを目的に設立されました。
  • 歴史的経緯:
    • 昭和初期、九州帝国大学(現・九州大学)別府温泉治療学研究所や東京帝国大学(現・東京大学)物理療法学教室などを中心に、全国の温泉研究者・物理医学者が集結して誕生。
    • 戦前・戦後を通じて、温泉の泉質分析、身体への生理作用(生体反応・自律神経系・免疫系への影響)の解明をリードしてきました。
    • 1952年には国際学会である「国際自然医学学会(ISMH)」にも加盟し、日本の温泉医学(Balneology)を世界に発信してきました。
  1. 主な活動内容

医学会として、研究成果の発表・論文公開から専門資格の認定まで多岐にわたる活動を行っています。

  ① 学術集会(総会)の開催および学会誌の発行

  • 学術集会:年1回、全国の大学教授や医師、研究者が一堂に会する学術集会を開催し、最新の臨床研究や基礎研究を発表。
  • 学会誌:会誌『日本温泉気候物理医学会雑誌』を定期発行し、温泉水・気候・温熱・水圧などの生体への効果に関する査読付き論文を多数掲載しています。

② 認定資格制度の運用(温泉療法医・温泉療法専門医)

専門資格を認定しています。

  • 温泉療法医:温泉の医学的知識・安全な入浴法を修得した医師に与えられる資格。
  • 温泉療法専門医:温泉療法医の上位資格で、一定以上の臨床・研究実績を持ち、指導的立場にある医師。 (※全国のアトピーやリハビリ治療で温泉を活用する皮膚科医・内科医の多くが本資格を保持しています)

 

  1. 会員数と構成

会員数:約1,000名〜1,200名規模(医師、基礎医学研究者、理学療法士、医療関係者など)

構成:大学病院(皮膚科、リハビリテーション科、整形外科、内科など)の教授・医師や、温泉地に隣接する病院・診療所の臨床医、さらには薬理学・生理学・環境医学などの基礎研究者が多く所属しています。

 

  1. 最近の研究の方向性とトピックス

近年の学術集会や学会誌では、単なる「温泉の効能」にとどまらず、現代医療の課題に対応した以下のようなテーマが活発に研究・議論されています。

① アトピー性皮膚炎・皮膚疾患に対する科学的検証(抗菌・保湿・免疫調整)

  • 皮膚常在菌叢(マイクロバイオーム)への影響:酸性泉(草津温泉など)や含硫黄泉の抗菌作用(黄色ブドウ球菌の制御)や、皮膚バリア機能への影響に関する遺伝子レベル・細菌叢レベルでの解析。
  • 油分・塩化物泉の保湿アプローチ:豊富温泉(原油成分)や塩化物泉が皮膚の角質水分量や脂質合成に与える機序の解明。

② 微小循環・自律神経・ストレス応答の解析

  • 自律神経系の整え:温泉の温熱・浮力・水圧作用が副交感神経を優位にし、ストレスホルモン(コルチゾール等)や炎症性サイトカインをどのように抑制するかを生化学的に計測。
  • 冷え症・血流改善: 炭酸泉などの末梢血管拡張作用による微小循環改善メカニズムの解明。

③ 現代型「メディカル湯治(温泉療法+健康増進)」の標準化

  • 西洋医学(標準治療)との統合:薬物療法を否定するのではなく、標準治療と温泉療法を併用することで薬の減量(テーパリング)やQOL(生活の質)向上を図る「統合医療」的アプローチ。
  • 健康寿命の延伸と未病対策:高齢化社会におけるフレイル(加齢による心身の衰え)予防や、認知症・生活習慣病予防としての温泉利用のガイドライン策定。

 

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